田中、農業はじめるってよ

山形県大江町で2018年に独立を目指しています。

すもも(大石早生)の収穫が終わる

 7月4日から13日まで、すももの大石早生(おおいしわせ)の収穫だった。大量になっているから、とにかくもぐ。そして、農協出荷のパック詰めが深夜まで続くと、事前に何度も聞いていたから心構えはできていた。百聞は一見にしかず。市場が休みのため午後休み、雨のため1日休みもあったが、その収穫量が想像をはるかに超えていた。下の写真は実が成りすぎて枝が地面に垂れ下がっている。なかには、重みに耐えきれずに根元が折れてしまったのも散見された。マイカ線で誘引しているにも関わらず、ここまで実が成るのには驚いた。収穫してしらばらく経てば枝は元に戻るそうだ。

 私は収穫担当で、朝5時から7時、8時から12時、13時30分から17時30分までひたすら収穫した。もいでもいでもぎまくる。田んぼに使う大型トラクターの後ろに荷台をつけて、それにフォークリフト用のパレットを敷きその上にコンテナを置く。下の写真を見るとわかるようにとんでもないすももの数。さくらんぼと違い、軸は残さず、傷つけない程度なら雑にとって構わない。雨でも収穫できる。大石早生は、実が青くてお尻が赤い状態で出荷するのがベスト。赤い実は熟成が進んでいるので、とってすぐ食べるにはうまい。が、パック詰めして店頭に並ぶ頃にはぐちゃぐちゃになるから出荷できない。

 収穫がはじまった数日はぬきもぎ(実を選別して収穫)していたが、中盤から一気に色づきはじめたので、がらもぎ(すべて収穫)に切り替えて、時間単位の収穫量をいかに多くするかに注力した。収穫したあとは選果(機械でサイズ別にわける)して、箱に詰める。さくらんぼのように化粧箱、フードパック、チルド、贈答など種類は多くないし、原料(果実)の扱いは楽だが量が半端ない。独立した先輩の「眠れねぇぞ」の言葉がリフレインした。畑の規模にもよるが、これ1人でこなすのはきつい。それでも大石早生は一番楽で、これ以降の品種は実についたプルーム(白い粉)をきれいに残して出荷しなければならないから、さくらんぼのように神経を使って収穫して箱詰めする必要がある。 

シルバーシートにも種類がある

 地面から日光を反射させて色づきをよくするために、収穫予定の2週間前をめどにシルバーシートを張った。師匠の畑で作っている桃もりんごも同様にする。トマトやナスなどの果菜類を作る時に銀マルチを張ると着色しやすいのと同じ原理だ。

◇A

◇B

 AとBのシルバーシート。どちらのほうが効果が高いか。白っぽいAのほうが通常のBより着色スピードが速い。Aは、反射角が広角なので広範囲に日光を果実にあてることができる。さらに月光も捉えるので、日中は晴れて月夜の晩なら24時間、光をあて続けられる。だが、値段がBの倍以上するだけでなくとにかく重いのが難点。50Mのさくらんぼハウスだけで使用するにとどまっている。

 シルバーの効果はいかほどなのか。AでもBでも、晴れていれば半日経たずにはっきりと色が赤に近づくのがわかる。さくらんぼの最優先評価項目は色だから、自然に任せて色づくのを待っているわけにはいかない。では、いつはがすのか。赤黒になる寸前で、放置しておくと熟しすぎて破裂。あるいは虫が寄ってくる原因になる。収穫しながらも様子を見ながらどんどんはがしていった。

 このシートの張り方は、木の根元に沿って真っすぐにするだけなのに、実は難しい。まずは、根元側の端を釘でとめる。次に適当な感覚で根元側をとめながら進み、根元側を全てとめたら、折り返して戻りながら外側をとめていく。根元側が暗いので、そこにシルバーをきちんと張りたいからこの順番になる。外側はシルバーが足りなくても、日がもともと当たりやすいので、きちんと色づく。目的と要領をきちんと理解していないと、時間がかかってやり直しになってしまう。シルバーシート張りの農作業一つでも、無駄がないように動かないと体に疲れが溜まっていく。

雨除けハウスは万全でない

 さくらんぼの露地栽培は、雨除けハウス(天井のみビニールで覆う)のことを指す。なかには、これさえせずに文字通りの露地栽培をしている農家もある。雨に弱いさくらんぼなので、コストはかからないがハイリスクなので収益を上げるのはとても難しい。おいしさでは、日光が直接あたる文字通りの露地栽培のほうが勝る。紅さやかで試してみたが、味が濃くなくほんのり自然な甘みと酸味があった。

 雨除けハウスをすれば、あとは安心して収穫できるのか。そう簡単にはいかないのが難しいところ。ビニルをかけて3日から4日ほど雨が降り続いたら、湿気が溜まり、ハウス内の湿度は急上昇して、実割れを起こす危険が高まる。若い木ほど被害を受けやすく、中年や初老はそれほど受けないらしい。身を守る術を身につけているのか。早くかければいいのではなく、収穫予定日、生育状況、天候を見て、その時期を見計らう。できるだけ、収穫まで少ない日数の方がよい。例えば、水やり。雨はホースの散水に比べて窒素含有量がけた違いに多い。ハウスをかける予定日の前後に雨が降る予報ならば、それを待ってからかければ、その後の生育が順調に進む可能性が高くなる。

 湿気は消毒とも関係する。収穫直前に予防として消毒を行うが、晴れて湿気が少ない日に行わないと、消毒液の水分でさくらんぼが破裂する恐れが出てくる。かといって、消毒をしないと、ショウジョウバエカメムシに喰われて捨て玉(クズ)の割合がぐんと高くなる危険がある。収穫までの数日間は、この辺りを緻密に計算しないとパーになる。

贈答品のジレンマ

「果物だったら年1、2回の収穫だから直販できるかな」

 そんな安易な考えで有機野菜から果物に転向した私。

「果物をやるのだったら、贈答品のお客さんをいかに多くつかむか。これが勝負だし面白い」とよく口に出す師匠。これを聞いた時、自分の考え方を否定されず心強かった。さくらんぼは、売り先の過半数を贈答品で占めるので、当たり前の言葉といえる。だが、このやり方の原点は師匠がりんごのみを3町歩少し作っていた時代に遡る。表題とずれるのでまたの機会に書く。

 贈答品の利点は、毎年、一定の収入が見込めること。JA出荷だと市場価格に左右されるので、収入は読みにくい。それと直販なので、市場出荷では築けない新しい関係が生まれることも大きい。たとえば、トヨタ自動車の試作車の開発技術者、茶菓子の職人など。仕事を手伝ってくれたり、お客さんを紹介してくれたりとつながっていく。もちろん、おいしいさくらんぼを作るというのが絶対条件だが。

 じゃあ、贈答品の難点はなにか。注文を引き受けた以上は、不作でも必ず出荷しなければならない。さくらんぼに限らず、実がなって収穫しなければわからない代物。雌しべが霜焼けを起こす、開花期に授粉がうまくいかなかった場合は、実がなる前にある程度わかるが、熟す直前でパーになる。あるいは、天候不順で思ったより色が赤くならずに発送時期に間に合わないケースもある。例えば、100kg不足するとわかったら、よそのさくらんぼ農家から融通してもらわなければならない。もちろん利益は吹き飛ぶが、お客さんの注文を断われない。ここに贈答品の怖さがある。さらに、今年は味や食感が違うとクレームが入りかねない。クレームを入れる客ならいいが、来年から注文しなくなるサイレントクレーマーを増やす要因になる。

 JA出荷はほとんとせず、贈答(個人、法人、仲卸など)に絞っているさくらんぼ農家は多いと思う。裏を返せば、不作時のリスクヘッジをどうしているかが継続する鍵になる。販路構成で贈答品の比率をどこまで上げるか、わざと抑えるか。すべて贈答品で売れることに越したことはないが、仲卸、JAなど上手につまみ食いしていくのが生き残っていくポイントだと思う。

さくらんぼはお金がかかる

 さくらんぼのことを調べてまず驚いたのは、雨除けハウスを建てて栽培することだった。理由は水に弱いので雨に当たると果実が破裂してしまうから。家庭菜園でトマト栽培をする時、アーチを作りその上にビニルをかけるのと同じだ。梅雨に入る前、5月下旬から6月上旬にかけて屋根にビニルをかけていく。側面は鳥が迷い込まないために防鳥ネットを張る。すべて人力でやる。師匠は奥さんと2人でこの作業を昨年までしていたが、今年は足を怪我したので応援を頼んだ。

 1反(10a)あたり雨除けハウスの建設費はいくらかかるのか。

「資材費だけで200万円。建設費は50万円。耐用年数30年程度」と師匠から返ってきた。さらにビニル代が毎年かかる。ビニル張りの応援を頼めば、その分、手間賃を支払わなければならない。

 この時点で、さくらんぼがなぜ高いのか少しわかっていただけたと思う。自分が一番驚いたのは、収穫後から商品になるまでの手間だった。収穫は人をかなり使ってそれなりに人件費がかかるとなんとなく予想していたが、選果(色、サイズ)、10種類以上ある箱にそれぞれの規格に合わせて詰める複雑な作業は見ているだけで気が遠くなる。箱代もバカにならない。化粧箱は、一箱約250円。売値の8%前後を資材費が占める。

ダイヤモンドパック。なぜダイヤモンドにするかわからない。

化粧箱。2段になっていて軸が見えないように詰める。

スーパーに並ぶフードパック。色の濃淡を合わせて詰める。左は淡い。右は濃い。

 人件費はどうか。16日から26日まで収穫、詰め共に人員を増やした。収穫は6人雇い8人体制、詰めは6人雇い7人体制(だいたいの人数)。勤務時間は2時間から8時間とバラバラだが、時給800円としても相当かさむ。ここで問題なのは、人集めと熟練度の高さ。どの企業でもここは常に悩んでいるところ。乱暴にもがれたら、うるみ(実が衝撃で黒ずむ)が出たり、軸が緩んでクズ(捨て玉)になってしまう。詰める作業も同じで、いちいちサイズをJA作成の定規で測っていたら滞ってしまので、目測で瞬時にわけていかなければならない。一見、単純作業に思えるが誰でもできる作業ではない。さらにこの時期しかできないので、覚えるチャンスは年1回のみ。毎年お願いできる関係性を築いて、そのなかで技術を習得していってもらうしか方法はない。

 他に農薬代、肥料代、樹を更新するための苗木代などがかかるから、年間の経費はべらぼうに高くなる。さくらんぼが高い理由はここにあるし、値崩れを起こしたらさくらんぼ農家はやっていけなくなる。山形県に移住してさくらんぼが作れる地域にいるのだから、さくらんぼは営農品目に是非入れてみたい。贈答品としての価値が高いし、誰でも喜ぶから。だが赤い宝石の美しさの裏には、これだけの手間暇とお金がかかっていることを知ると「やりたいです」とはうかつに言えない。

「誰でもできる作物じゃないんですよ」

 師匠の奥さんの言葉に納得してしまった。ということで、自分はさくらんぼを営農品目に組み入れることは現時点ではない。あと最低2人じゃないとさくらんぼ作れないので、独り身ではどっちにしろ無理というのもある。

さくらんぼは明日で終わり

 佐藤錦の収穫が26日(日)に終わり、あしたで紅秀峰の収穫が終わる。もう来年までさくらんぼを食べることはできない。

 16日から26日まで朝5時から夕方5時(休憩は朝と昼で計2時間)まで農作業に明け暮れていた。朝5時から7時、8時から10時までは収穫。その後は、受粉樹のナポレオンやおすそ分け用のオオムラサキをもぐ。午後1時から3時までは農協出荷、それ以降は贈答用の出荷準備か収穫。寒河江や東根などの1町歩以上の規模を誇るさくらんぼ農家から見れば、楽でいいですねと思うだろう。さくらんぼメインの農家は、収穫が始まると朝5時から真夜中12時まで連日作業するのはザラ。さくらんぼは、6月から7月頭にかけて短期決戦だから休みや疲れたなんて言っている暇はない。私は、24(金)から疲れが体から抜けなくなり、車を運転中、一瞬だがうとうとしてしまいヒヤっとした。

 さくらんぼのネタはたんまり仕入れたので、少し暇がある今週中にたんまり書いていく。山形を代表する果物で、贈答品として高値で取引されるさくらんぼ。じゃあ自分の就農計画に組み込むかというと、現時点ではNO。まず1人では無理。さらに資金がべらぼうにかかるので、うかつに手を出せない。具体的な数字はあまり出せないが、収穫前から出荷まで一連の農作業にすべて携わって思ったこと。この辺りは、明日、詳しく書きます。

赤い宝石といえる佐藤錦。ほぼ熟している。

佐藤錦をJAへ出荷

 今日は朝から夕方までまとまった雨が降った。雨除けハウス内のがおった(枯れ気味)の佐藤錦1本をまるまる収穫した後、パック詰めしてJAさがえ西村山へ出荷した。パック詰めといっても多くの種類があり、それぞれ箱の組み立てや並べ方が違うので熟練しないと大量の商品を作ることができない。今日は、本格的な収穫(16日から26日)前だから急ぐことはなかった。なぜ佐藤錦を早々に出荷したのかというと、この時期はまだ出回っている量が少なく価格が高くなるから。枯れ気味の樹になる果実は色と形がよくても、味は元気な樹よりどうしても劣ってしまう。贈答品向けには当然使えないから、早くもいで(収穫)売上を立てる算段だ。JAを通さずに直接売る、中抜きが当たり前となっている向きはあるが、販路の一つとしてJAを利用する価値はある。腐っていたり、傷がついていたりするのは委託できないが、大概の作物は値段をつけてくれる。時期を見計らって出荷すれば相当の値段がつくから、人件費を考えれば利益率はそれほど悪くない。

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 これは220gのバラ詰め8パックが1箱におさまっている。個選*1(自分の名前で出荷)、品種、階級(大きさ)にハンコを押して商品が出来上がる。階級はマジックで○すればよいと思うのだが、これもなぜかハンコ。等級はJA出荷担当者が決める。

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 これは500g×2パックの1kg箱。両方とも特秀(最高ランク)の評価を得た。これから収穫最盛期を迎えるから出荷場への持込は少なくゆったりとしていた。

 収穫してコンテナごと出荷できれば楽だが、さくらんぼはすべて箱詰めする必要がある。この詰め作業にかかる時間と人件費も頭に入れておかないと、手元にお金は残らない。あるいは赤字になってしまう。JAの箱には旬の贅沢品とプリントされていたが、まさに贅沢品そのもの。手間暇を考慮するともう少し高くていいと思う。

*1:個選名のハンコは伏せてあります。