田中、農業はじめるってよ

山形県大江町で2018年に独立を目指しています。

さくらんぼはお金がかかる

 さくらんぼのことを調べてまず驚いたのは、雨除けハウスを建てて栽培することだった。理由は水に弱いので雨に当たると果実が破裂してしまうから。家庭菜園でトマト栽培をする時、アーチを作りその上にビニルをかけるのと同じだ。梅雨に入る前、5月下旬から6月上旬にかけて屋根にビニルをかけていく。側面は鳥が迷い込まないために防鳥ネットを張る。すべて人力でやる。師匠は奥さんと2人でこの作業を昨年までしていたが、今年は足を怪我したので応援を頼んだ。

 1反(10a)あたり雨除けハウスの建設費はいくらかかるのか。

「資材費だけで200万円。建設費は50万円。耐用年数30年程度」と師匠から返ってきた。さらにビニル代が毎年かかる。ビニル張りの応援を頼めば、その分、手間賃を支払わなければならない。

 この時点で、さくらんぼがなぜ高いのか少しわかっていただけたと思う。自分が一番驚いたのは、収穫後から商品になるまでの手間だった。収穫は人をかなり使ってそれなりに人件費がかかるとなんとなく予想していたが、選果(色、サイズ)、10種類以上ある箱にそれぞれの規格に合わせて詰める複雑な作業は見ているだけで気が遠くなる。箱代もバカにならない。化粧箱は、一箱約250円。売値の8%前後を資材費が占める。

ダイヤモンドパック。なぜダイヤモンドにするかわからない。

化粧箱。2段になっていて軸が見えないように詰める。

スーパーに並ぶフードパック。色の濃淡を合わせて詰める。左は淡い。右は濃い。

 人件費はどうか。16日から26日まで収穫、詰め共に人員を増やした。収穫は6人雇い8人体制、詰めは6人雇い7人体制(だいたいの人数)。勤務時間は2時間から8時間とバラバラだが、時給800円としても相当かさむ。ここで問題なのは、人集めと熟練度の高さ。どの企業でもここは常に悩んでいるところ。乱暴にもがれたら、うるみ(実が衝撃で黒ずむ)が出たり、軸が緩んでクズ(捨て玉)になってしまう。詰める作業も同じで、いちいちサイズをJA作成の定規で測っていたら滞ってしまので、目測で瞬時にわけていかなければならない。一見、単純作業に思えるが誰でもできる作業ではない。さらにこの時期しかできないので、覚えるチャンスは年1回のみ。毎年お願いできる関係性を築いて、そのなかで技術を習得していってもらうしか方法はない。

 他に農薬代、肥料代、樹を更新するための苗木代などがかかるから、年間の経費はべらぼうに高くなる。さくらんぼが高い理由はここにあるし、値崩れを起こしたらさくらんぼ農家はやっていけなくなる。山形県に移住してさくらんぼが作れる地域にいるのだから、さくらんぼは営農品目に是非入れてみたい。贈答品としての価値が高いし、誰でも喜ぶから。だが赤い宝石の美しさの裏には、これだけの手間暇とお金がかかっていることを知ると「やりたいです」とはうかつに言えない。

「誰でもできる作物じゃないんですよ」

 師匠の奥さんの言葉に納得してしまった。ということで、自分はさくらんぼを営農品目に組み入れることは現時点ではない。あと最低2人じゃないとさくらんぼ作れないので、独り身ではどっちにしろ無理というのもある。