田中、農業はじめるってよ

山形県大江町で2018年に独立を目指しています。

まどかの衝撃

 桃は桃。一切れか二切れ食べれば十分だった。あの甘ったるさが堪えてあまり好きになれなかった。だが、まどかという品種を食べて一変した。雑味がなくてすっきりした甘さ。ほんのりした香り。もう一つ食べたくなるほどおいしい。大玉で日持ちもするので、生産者も消費者にもメリットがある。川中島、白鳳、黄金桃に比べればマイナーだが、このまどかは桃を栽培するならば主力になると思う。

 桃への関心が一気に高まったのは、このまどかを食べてから。お盆休みにおすそ分けしたのもまどか。家族や親せき等に贈答で送ったのもまどか。評判は上々で、「まどかこそ桃」という師匠の言葉が確信に変わった。まどかと川中島を食べ比べると、川中島の渋みがよくわかる。それに川中島は見た目が野暮ったい。こんなことを書いても、桃農家でなければまずわからない。出荷時期がずれるから、お客は食べ比べることはまずできないからだ。だが、川中島の人気は相変わらず高い。買うのはお客だし好みは人それぞれ違うから、ある程度合わせて作っていかないと売上を伸ばすことは難しい。

 桃を作ることになったら、このまどかのおいしさを広めて、1人でも多くのファンをつかみたい。

桃をもらって喜ばない人はいるのか

 お盆休みに師匠が持たせてくれた桃(まどか)10個をできるだけ多くの人に食べてもらった。それだけでなく、桃について聞いたみたところ、嫌いな人はいなかった。むしろ、いただいて恐縮ですと故梨元勝のように反応することに驚いた。

 有機野菜の個別宅配(直販)が厳しいと感じて、果物なら年1から2回だからとってもらうだろうと、安易な考えで果樹に路線変更した。山形ならさくらんぼだが、1人でこなすには厳しいものがある。桃をこれだけ多くの人が好きだったら、まさに直販向きの品目になる。当初はすももの新品種を作りたいと考えて大江町にやってきたが、営農品目の柱にするかというと答えはNO。収穫量とパック詰めが尋常でない量なのと、金がとれにくい。それと直販には不向きといえる。すもも好きなひとはいるが、桃に比べると少ない。わざわざ取り寄せて食べる人は少ないし、贈答になればさらに少なくなる。

 もう1か月以上、桃をもいでいるのだから、関心が強くなるのは当たり前だ。ネックは、岡山、山梨、福島のブランドには足元にも及ばないこと。山形で桃を作っていることを知っているのは、どのくらいいるのだろう。つまり、市場流通や小売りではどうしても弱い立場になる。出荷時期は、8月中旬から9月いっぱいなので岡山や山梨とかぶる期間は少ない。が、福島と競うことになる。そうなると直販のお客をどれだけ掴むかが収益をあげる鍵になる。果物は、味の差が歴然とわかるから、うまいものを作って相手が喜べば、贔屓になってくれる可能性は高い。その前に成木と栽培技術を手に入れなければ話にならないが。

桃の収穫リレー

 8月6日のあかつきが始まった桃の収穫。今月末まで続く予定だ。あかつき、まどか、川中島、ハネージュ、あぶくまとリレーしてきた。あぶくまは、あと2日で終わりそう。その後も伊達、さくらなどが控えている。

 午前5時30分から午前7時まで収穫。朝食をとって午前8時から正午まで選果、箱詰め、JA出荷。その後休んで、午後4時から午後6時まで収穫。天気や色づきをみて、朝、または夕方の仕事をやらない時もある。このリズム感は自分に合っている。朝起きるのがつらくなってきているから、疲れは溜まっていることは確かだが、心地よさもある。

 これだけ桃を食べ比べしたのも人生で初めて。それぞれ違うからおもしろい。桃ネタをいろいろ仕入れたので、ちょこちょこ書いていこうと思う。8月は夏休み気分で更新をサボっていたのもあるし。

雨除けの袋をかけたあぶくま。

モーレツに話したお盆休み

  台風9号は北海道を抜けて、大江町は晴れて少し風が吹いている。夏はまだ続きそう。農家にお盆休みはない(雑仕事や草刈などはある)が、11日から16日まで帰省した。とにかく連日人に会って話した。東京に帰りたいではなく、東京の人とモーレツに話したかったんだと大江町に戻って気づいた。農家のこと、農業のこと、大江町のことはもちろん、それだけでなく近況などをとりとめなく話したかった。今回会えなかった人は、次に帰省、または帰京した時にゆっくりと話したい。一種のホームシックだったのだろう。時間を作って会ってくださった方々、ありがとうございました。

 こっちに持ってきたCDや本をようやく手に取る余裕が出てきて、東京にいる時よりじっくりと落ち着いて楽しんでいる。フォーラム山形で「シン・ゴジラ」「ひそひそ星」「カルテル・ランド」を観られたのも心の糧になった。批評や感想をいちいち書くつもりはないが、近況報告を兼ねてちょくちょくアップしていこうと思う。

 

桃の収穫がはじまりました

 5日から桃の収穫が始まった。9月末まで品種リレーして出荷していく。後半戦のスタートだ。作業は午前5時から7時(収穫して小屋に運ぶ)。午前8時から10時過ぎまで選果と箱詰めや箱作り。夕方5時ごろから1時間ほど明日の準備をする。日中は休み。全国で35度を超える猛暑が連日続いているが、大江町は内陸盆地気候なので日中はとにかく暑い。朝と夜は冷えるので、東京のような熱帯夜はないから助かる。炎天下の作業は死を意味するし、効率があがらない。それも約2カ月続くから、日中も作業していたら体が持つわけがない。

 桃は指先に力をいれてもぐと握った跡がくっきりつくので、手を広げて指の第2関節あたりと手の平の上の辺りに力を入れる。ねじったり左右に引っ張るのでなく、地面に向かって垂直にそっと引っ張る。さくらんぼより数は少ないが、玉は大きいし繊細な果物のような気がする。この時期、朝は涼しくて集中力があるので一番はかどる。朝食を食べてからの午前8時以降は一気に気温が上昇するので、小屋での作業でないとキツイ。さくらんぼのように短期集中でなく、日々、少しずつ農作業をしていくリズムは自分に合っている。

 桃は桃としか認識なかったのに、栽培という点ではとても面白い。シルバーを敷くまで成っている気配を消す(日光をできるだけ避ける)ようにするとか、樹の上部から熟すので色見や形が悪くても味では下部よりおいしいとか。当たり前だけど桃が好物という人は多い。

収穫直前のあかつきという桃。

このあと作業小屋に運び選果、箱詰め。

売れる桃とおいしい桃の違い

 師匠は7月中旬から下旬になると、からっきしやる気がなくなるという。とはいいつつも、仕事はあるわけで朝2時間、夕方2時間とのんびりと過ごしている。昨夕、まどかのシルバーシートを張ってあとは収穫を待つだけとなった。桃の栽培で難しいのは、いかに日光をあてずに固めの果実を作ることだと教えてくれた。シルバーを張るまでは、葉の色と果実がほぼ同化して、遠目ではなっているのかわからないように作らなければいけない。シルバーの反射光でお尻が赤くなり、初めて桃がなっていることを目で確認できるのがベスト。そして、軸(頭)には日光をあてずに葉っぱで覆うのポイント。軸に日が当たると一気に柔らかくなり、売り物にはならなくなるから。

 じゃあ、おいしい桃はどうか。日を当てて色づきやわらかくなったのを、もぎたてで食うのが一番。これにはかなわないが、箱詰めしてお客さんの手許に届く頃には熟れすぎてぐちゃぐちゃになる。もちろん、その前に市場やJAからクレームが入るが。

「桃を作っているのはお金をとるため。売れる桃を作らなきゃ」

 おいしい桃だから売れるのではなく、売れる規格に合わせた(大きさ、色、やわらかさなど)桃を作ること。今更ながら金づちで頭を殴られた衝撃を受けた。専業農家で食うことの基本的な考え方を目の当たりにした。規格や流通に問題ないかというは話は別として。

山形でも桃は作っています

 師匠の畑で作付け面積が一番なのは桃。東京で37年間過ごしてきた私にとっては、岡山、山梨しか思いつかない。それと福島が一大産地なのも大江町に移住して初めて知った。結局は、産地化とブランド化に成功した地域の農作物が都市圏で流通することを改めて感じた。山形は品薄となり高値で取引される9月に照準を合わせて栽培している。

 桃はあまり好きじゃないせいか、桃といえば桃しか思いつかない。が、品種は驚くほどある。果肉が固めの“おどろき”、“まどか”、“あかつき”、“川中島”、“伊達”、“さくら”、“阿武隈”など。師匠のおすすめは、まどかとさくら。名前を聞いただけで色香が漂う、いいネーミングだと思う。

 作付け面積は広いが品種ごとに植えられているため、シルバーシート敷きも収穫に合わせて移していくだけ。収穫も同じく、さくらんぼのように短期集中でなく1品種、数日で終わり。8月初旬から10月初頭まで収穫リレーが続いていく。