田中、農業はじめるってよ

山形県大江町で2018年に独立を目指しています。

さくらんぼの収穫は突然に

 6月1日の午後2時半頃から、佐藤錦の葉摘み(さくらんぼの着色をよくするために周辺の葉を摘む作業)を止めて、早生(わせ、早く採れる品種)の紅さやかの収穫をした。この日は、気圧の谷が通過中で大江町は強風に加えて寒かった。そのため、一気に採れ頃まで熟して色づいた。正午には、早くて2日、3,4が採れ頃だと師匠は話していたが、わずか2時間で状況は一変して収穫を前倒しした。自然の力をまざまざと見せつけられた。紅さやかは赤黒で酸味が強いが、普通においしい。佐藤錦には比べ物にならないらしいが。研修に入ってはじめての収穫は楽しみというより、商品を扱う緊張感でいかに傷つけずに効率的に採るかに集中した。同じ時間で周りより1/3程度しか採れず、さらに採り残しがある始末。剪定も摘果も収穫もすべて右回り。一本の枝を丹念につたい一筆書きの要領で作業をすれば漏れがなくなる。そのように剪定をしてあるのだから、あっちこっちの枝に移る必要はない。農作業の動きが体に染み込むには、まだまだかかる。

青年就農給付金の縛り

 新規就農について調べたことがある人なら青年就農給付金の制度を知っているだろう。農業はよく補助金の額が多く、給付要件が他の業種より緩いといわれる。ほかの業種で補助金制度がどうなっているかよく知らないが、おそらく手厚いと思う。独立するまで最大2年間、年150万円(準備型)。独立してから最大5年間、年150万円(経営開始型)。これらの金額を利用者は受給できる。財源は国民の税金で、みなさんに食わせてもらっている身分である。

 先週金曜日、青年就農給付金を受給するための面接を受けてきた。農業をやる意思、生活保護や失業保険など他の助成制度を受けてないか、就農計画の中身など、普通の面接だった。ここで落とされることはほぼないと思われるが、就農計画でのやり取りはどの品種を組み入れるかで参考になった。

 面接する前、担当者がこの給付金制度を利用する際の注意点を教えてくれた。

 ・アルバイトをする場合、週20時間を超えて継続的に働くと雇い主側は雇用保険加入義務が発生する。農業で独立するまでの生活資金を補助する本来の目的から外れるので、全額一括返済になる。

・年150万円の算定基準は、全国で一番生活費が高いと言われる東京都を基準に全業種の平均賃金を加味してはじき出した。ゆえに、150万円があれば物価の安い地方では十分に暮らしていけるだろう。

 つまり、アルバイトはそもそも必要ないでしょという話。実際は貯蓄を切り崩し、アルバイトをして糊口をしのいでるのが現状だが、お上の会計検査院は絶対に認めないらしい。昨年度、アルバイトが週20時間超えて継続して働いた人が一括返済になっている。だからといってアルバイトをするなということでなく、一度相談してくださいと言われた。

 この制度を利用するとその地域で最大8年間、農業で縛られることになる。それも色々な制約条件付きで。150万円の補助金制度にひかれて安易な気持ちで始めると、残るは借金だけとなる。それも一括返済で。

 農業で食っていくのは非常に厳しいし、独立して5年で経営を軌道に乗せるのは難しいだろう。10年、15年でようやくだと思う。青年就農給付金の制度がはじまって今年で4年目。あとで振り返った時、あの税金は無駄じゃなかったと言われるよう真面目に農業に取り組んでね。役人らしからぬ、熱い口調で話してくれた担当者だった。

1.5%

 収穫した果実の数量は、咲いた花の1.5%にすぎない。果樹はおおむねこの数字があてはまると師匠が教えてくれた。下の写真はさくらんぼの花。1つの芽から約20の花が咲くが、さくらんぼとして商品になるのはわずか1から3個。3個なれば豊作というのだから、ほとんどが地面に落ちる。

 1本の成木から100kgのさくらんぼが採れるとする。一粒8gとすれば、商品となった花の数は12500。これを0.015で割ると、全体で約833000になる。信じられないかもしれないが、金になるのは僅かである。芽かき、摘果などいい果実を採るために絞り込んでいく作業があるからこれほど少なくなるのもあるが、儚さを感じる。特にさくらんぼは、収穫から出荷まで短期決戦だからなおさら。早生の紅さやかは、来週4、5日に収穫予定。佐藤錦は24、25。紅秀峰は、7月5日頃。

 1.5%の話を聞いた時、大げさだと思っていたが、毎日、果樹の移り変わりを見て農作業をしていると、この数字が肌感覚でわかってきた。

研修生1年目の1日とこれまで

 昨日まで夏を感じさせる日差しだったのには朝から雨。午後はくもりだがすっきりしない天気。ということで、本日はお休み。週末に弾丸で帰京していたので、疲れをとるにはいいタイミングだった。さくらんぼの雨除けビニールを今週末に張る予定なので、それ以降は天気に関係なく日曜日も農作業となる。

 研修生の1日の様子はこれまで書いていないので、ざっくりとスケジュールを追ってみる。原則として、日曜日以外の午前8時から正午、午後1時から午後5時まで受入農家さん(研修先)の元で一緒に農作業をする。休憩時間は30分。午前10時と午後3時。みんなでお茶やお菓子を食べながら、世間話をする。農家に限らず、ここでのコミュニケーションは大事。山菜のうまい食べ方、町のこと、畑のことなど、いろんな話が飛び交う。休憩なんかしないでぶっ続けで作業をした方がよいと思うかもしれないが、そんなことをしたら体が持たない。それとつまらない。畑を見ながら小屋で一緒にたわいのない話をするのは、県外の人間にとって新鮮な話題が多くおもしろい。

 私の受入農家Fさんの畑は、桃80a・リンゴ60a・サクランボ40a・ラフランス10aの規模。いまは、実がなりはじめたサクランボの枝が重さで地面に垂れ下がらないように、麻ひもで上に引っ張り固定する誘引の作業をしている。7月10日前後までサクランボの作業がメインとなる。じゃあ、そのFさんはどうやって決まったのか。

 私は新規就農者受入組織「OSINの会」に所属しており、ここは10人の受入農家さんを中心に構成されている。本人の作りたい農作物をヒアリングして、なるべく希望と合致する農家さんで研修できるように調整。研修期間は2年で、2年目は別の農家さんの元で研修する。また、ある期間だけ他の農家さんに出向くこともできる。様々なスタイルの農家さんを見ることで、視野を広げて自分の就農計画に落としむことができるからだ。私の同期は5人(内女性3名)、2年目は2人と大江町に移住して農家を目指す人は増えている。

 さくらんぼの新品種が作りたくて大江町にやって来たのに1年目の受入農家さんはすももを作っていない。が、それは気にしていない。すもも専門農家になるなら別だが、他の果樹を組み合わせる予定なので、先にすもも以外を勉強していると考えればよい。ちなみに、りんごとラフランスを組み入れる計画。それに他の果樹を知っていると共通する部分やそれぞれの特色が身につき比較できるから、後々、必ず役に立つ。最近思うのは、作物うんぬんより畑に立って色々な作業をしているのが好きだということ。

 

たかが草刈りではない

 雨が降ったりやんだりとはっきりしない天気が続く大江町だが、昨日から晴れて夏に向けて一気に加速し始めた。雑草もぐんぐん伸びて、樹の根元が隠れるほどになった。そこで畑ではどこでもやる草刈りが始まる。鎌や刈払機を使うと思いきや、果樹園では乗用草刈機で雑草を刈る。文字通り、ゴーカートに似た車に乗って園地を走る。刃は座席の下(腹)にあり、長さは調節できる。燃料は車と同じガソリン。一方、トラクターやSSは軽油。

  乗用草刈機はブレーキがない以外は、車の運転と同じで慣れれば操作は難しくない。ではどうやって刈るか。園地の外周を左回り(右タイヤより左側に草がある状態)で走り、渦巻きを描くように刈っていく。あるいは、樹の列を先に1周してから外側を左回りで刈る方法もある。とにかくカーブする回数を減らして大回りで刈るだけ。この説明を読むと簡単にできそうだが、実は難しい。特に車の運転が下手くそな私にとっては。

 上の写真は、桃の畑。一番外側だけ刈った状態になっている。あとは、左回りでぐるぐると回るだけ。下の写真は、刈り取った状態。

 この写真だけ見るときれいサッパリに見えるが、実は同じ箇所を4,5回も通っている。渦巻きを描くように走るだけだから、同じ箇所を2回以上刈ることはないはずだが、コース取りを間違えたのと、カーブまたはUターンが下手なので刈り残しが必ず出てしまったのが原因だ。情けない話だが、タイヤが直に見えるので後進時のハンドル操作とタイヤの動きがよくわかった。結局、スイッチバックをせずに後進するからいつまでたっても行きたい方向に車が向かない。乗用草刈機の運転が車の運転になるとは思わなかった。そろそろ普通にまともに運転できるようになりたい。

 たかが草刈ではないのはうすうす感じていたが、まさか効率的にやるのがここまで難しいとは体験してみないとわからなかった。

「農業は時間をかければいい結果が生まれるのではない。時間をかけても出来は悪いまま。企業だと最初はゆっくりと正確にやることを指導するけど、農業は根本からして違う」

 これは師匠の言葉だが、この言葉が身に染みている。機械でも手作業でも、結局は人の手を使うから、いかに効率的にやるかを考えないと、年中働く羽目になり、よい作物はできない悪循環に陥ってしまう。

受粉と授粉

 すもも、ラフランス、さくらんぼ、りんご、桃の花はすべて開花して、今は着果へ向かってる。雌しべに花粉がうまくつけば、果実がなる可能性がぐんと高くなる。その条件は、風がない、暖かい、湿っているの3つ。風があると花粉は吹き飛ばされる。暖かければ、ミツバチの活動が活発になりせっせと花から花へ飛び花粉を運んでくれる。3番目の湿っているは意外だった。開花の前に雨が降り地面が湿ることで、雌しべの柱頭が濡れて粘着性が上がるので、花粉が付きやすくなる。糊の役割を果たすということ。ミツバチやその他の虫など、人の手を介さずに受粉することを自然受粉という。

 だが、そう都合よく虫は媒介してくれない。そこで人の手で受粉を施すことが必要になり、これを人工授粉と呼んでいる。やっこ(長い柄の先に羽ばたきが付いたもの)でやるイメージしかなかったが、それ以外に方法がある。切り枝と花粉と石松子(花粉の増量剤)を混ぜて梵天で花に花粉をつける2つのやり方。

 上の写真はすももの切り枝。受粉樹の枝を銀色の袋に入れてたっぷり水を入れて、受粉させたい樹の上部から吊るす。花粉は上から下に落ちるからだ。受粉樹というのは、自家不和合成(他の品種の花粉をもらわないと受粉できない)の品種に実を成らせるための樹で花粉を作るための専用と考えていい。すももの場合、太陽という品種は、ソルダム、ハリウッド、エレファントハートの3種が結実しやすい受粉樹となっている。つまり、自家不和合成の品種が植えてある果樹園にはほぼ受粉樹が植えてある。

 4月下旬の10日程、さくらんぼの畑にミツバチの箱が置かれた。天気がよく暖かいので、ぶんぶんと音を立てながら元気いっぱいにさくらんぼの木々の間を飛び回っていた。佐藤錦や紅秀峰の間には、高砂やナポレオンなどの受粉樹が植えてある。

 りんごの花粉と石松子を混ぜ合わせて、梵天にそれをたっぷり付けて、りんごの花に授粉する。石松子は花粉の量を増やす効果がある。なぜこれを使うかというと、花粉は非常に高価で25gで3000円を超えるからだ。ちなみに石松子も2500円程度。受粉樹の花粉を使わなければ、その分コストがかさむ。色はきれいだが。

 これは花粉を取り出す開葯器(かいやくき)。JAさがえ西村山大江営農センター内になるあるりんごの選果場で見た。どうやって花粉を取り出すのかわかないので、調べてみる予定。

 

山菜真っ盛り

 山形は春になると山菜をたくさん食べると聞いていたが、毎日、その話題がのぼる。町内の温泉の直売コーナーにも、こごみ、たらの芽などが袋詰めにして売っている。自分は、受入農家さんの畑で採ったりいただいたりしているので、その価格(高い)にびっくりしている。だいたい天ぷらにして食べるが、おひたしにするのもある。たらの芽、ウド、ふきのとうは食べたことはあるが、こごみ、赤こごみ、ナンマイ(ミツバウツギ)、しどけ、山菜のアスパラと言われるしおで、こぶし、など、聞いたことがない山菜が次々と出てくる。

 下の写真は、先週の懇親会で食べた山菜のしゃぶしゃぶ。ヘルシーでうまいのひとこと。これ、東京ではまず食べられないだろう。これだけの種類と量の山菜を揃えることが難しいし、どうしても採れたてじゃないとおいしくないから。

 この時期から野菜の苗や種を畑に植えるから、野菜代わりに山菜を食べていたのだろう。「貧乏だから何でも食べるのよ」と笑いながら地元の人は言うが、生活の知恵だと思う。袋詰めにして道の駅や産直ショップに卸せば、現金収入につながるし。

 これはたらの芽の木。こんなに高くなるなんて、こっちに来て初めて知った。そして幹に棘があるので注意して取らないと怪我をする。長い棒の先にカギをつけた道具を使い、枝をしならせてハサミで切り取っていく。崖に生えていることもあるから怖いが、かごいっぱいに採れると嬉しいし、どう料理するかを考えるとご飯が楽しくなる。

 なにを食べてもおいしいが、ほろ苦い味がするふきのとうのおひたしがおススメ。湯がきとさわす(水に浸してあくを抜く)の時間で、苦味が変わるからその加減が難しい。