田中、農業はじめるってよ

山形県大江町で2018年に独立を目指しています。

贈答品のジレンマ

「果物だったら年1、2回の収穫だから直販できるかな」

 そんな安易な考えで有機野菜から果物に転向した私。

「果物をやるのだったら、贈答品のお客さんをいかに多くつかむか。これが勝負だし面白い」とよく口に出す師匠。これを聞いた時、自分の考え方を否定されず心強かった。さくらんぼは、売り先の過半数を贈答品で占めるので、当たり前の言葉といえる。だが、このやり方の原点は師匠がりんごのみを3町歩少し作っていた時代に遡る。表題とずれるのでまたの機会に書く。

 贈答品の利点は、毎年、一定の収入が見込めること。JA出荷だと市場価格に左右されるので、収入は読みにくい。それと直販なので、市場出荷では築けない新しい関係が生まれることも大きい。たとえば、トヨタ自動車の試作車の開発技術者、茶菓子の職人など。仕事を手伝ってくれたり、お客さんを紹介してくれたりとつながっていく。もちろん、おいしいさくらんぼを作るというのが絶対条件だが。

 じゃあ、贈答品の難点はなにか。注文を引き受けた以上は、不作でも必ず出荷しなければならない。さくらんぼに限らず、実がなって収穫しなければわからない代物。雌しべが霜焼けを起こす、開花期に授粉がうまくいかなかった場合は、実がなる前にある程度わかるが、熟す直前でパーになる。あるいは、天候不順で思ったより色が赤くならずに発送時期に間に合わないケースもある。例えば、100kg不足するとわかったら、よそのさくらんぼ農家から融通してもらわなければならない。もちろん利益は吹き飛ぶが、お客さんの注文を断われない。ここに贈答品の怖さがある。さらに、今年は味や食感が違うとクレームが入りかねない。クレームを入れる客ならいいが、来年から注文しなくなるサイレントクレーマーを増やす要因になる。

 JA出荷はほとんとせず、贈答(個人、法人、仲卸など)に絞っているさくらんぼ農家は多いと思う。裏を返せば、不作時のリスクヘッジをどうしているかが継続する鍵になる。販路構成で贈答品の比率をどこまで上げるか、わざと抑えるか。すべて贈答品で売れることに越したことはないが、仲卸、JAなど上手につまみ食いしていくのが生き残っていくポイントだと思う。